私は生物の特徴のひとつは「進化」だと思っています。みなさんは進化と聞くと「生存競争」「弱肉強食」「適者生存」など、心がトゲトゲする言葉を思い出すのではないでしょうか。しかし、暗黒の深海底に生息する生物の中には、そうではない、やさしい進化で繁栄しているものがいます。そういう深海生物の代表例は、口も消化管も肛門もない不思議な生き物で、チューブワームと呼ばれています。
海底火山などに生息するチューブワームは、まるで食べることを放棄したかのようですが、植物ではなく、れっきとした動物です。「動物はものを食べる生きもの」という概念を、このチューブワームは根本から覆したのです。その不思議な生き方の秘密は、海底火山から噴き出すイオウ化合物(硫化水素)にありました。それをエネルギー源として栄養分を自給自足する特殊なバクテリアがいます。チューブワームはそのバクテリアを体内、いや細胞内に取り込んで共生させることで、暗黒に深海にあっても繁栄しているのです。これはダーウィン進化を超えた「共生進化」の賜物です。
光も要らない、食べ物も要らない、海底火山があればいい。ならば、地球以外の天体でも海底火山があれば、そこにチューブワームのような生物がいるかもしれません。チューブワームの存在は地球外生命の可能性を強く予感させることにもなったのです。そして、実際に、海底火山のありそうな地球外天体も見つかっています。では、そこに行ったら地球外生命に会えるのでしょうか。そんなに遠くない未来の夢を皆さんと共有したいと思います。
Copyright © 第28回自律分散システム・シンポジウム事務局 (写真提供:広島県)